志望した学校は当時の偏差値で65の名門。しかも、当時は4科目が必須の学校でした。
「これまで中学受験の勉強をしたことは・・・?」
「ないです。」
「合格判定つきの模擬試験などを受験されたことは・・・?」
「ないです。」
A子ちゃん親子の目にはやる気は感じられたものの、当時、教室責任者として他にも5年生を20名ほど預かっていた私としては、安請け合いすることはできませんでした。
一般的な中学受験勉強は4年生、遅くとも5年生の春から始まっていること。今から追いつこうとすると、個別指導なども活用しながらかなりの負担が生じること。などをお伝えし、まずは直近の模擬試験を受けることにし、一回目の相談を終えました。
2週間後、模擬試験の結果を見て青ざめるAちゃん親子の姿がありました。
偏差値37。
志望した〇〇大附属中の合格可能性は5%未満。
「・・・こんなに高い壁なんですね。」
涙ぐむA子ちゃんの背中をさすりながら、お母さんは話し始めました。
「家庭の事情もあり、つい最近まで中学受験という選択肢をまったく考えていませんでした。ところが最近、A子が〇〇大附属中にどうしても行きたい、と言い出して・・・。勉強は嫌いじゃないし、学校のテストでもしっかり点数が取れていたので、まだ間に合うのかと連れてきたんですが・・・。」
「お母さん、A子ちゃん。可能性は0%ではありません。が、中学受験は学校の内容とはまるで異なり、しっかり時間をかけて準備するのが一般的なのも事実です。集団授業に今すぐ合流するのは難しいので、秋冬までに個別指導で追いつければ・・・、というところです。国社はまだしも、算数と理科はかなりの講座数をとっていただく必要があると思います。費用的な面も含め、もう一度よくご家族で話し合ってみてください。」
2回目の面談の帰り際、A子ちゃんは模擬試験の判定表を握りしめ、真っ赤になった目をしっかりと見開き、私におじぎをしてくれました。
礼儀正しいいい子だな、負けず嫌いそうだし、ひょっとすると・・・とも思いましたが、後日お母さまからお電話があり、費用的な面で通塾は断念する、とのご連絡でした。
それから1年半後の2月中旬。
私の教え子たちの合否結果がすべて出揃いおわったのを待っていたかのように、A子ちゃん親子が来塾してくれたのです。
〇〇大附属中の合格通知を持って。
そして衝撃を受けます。
A子ちゃんは、あの夏休みの受験相談から1年半。どこの塾にもいかず独学で受験対策をしたそうです。自ら〇〇大附属中の過去問を5年分買い込んで分析し、出題傾向から何を学べばよいかを考え、受験勉強の素地ができていない自分がどうしたら間に合うかをひたすら追究した、と。
ただただ驚き、そして、子どもの可能性を軽んじていた自分を猛省しました。
そんな自分に、A子ちゃんはこう言ってくれたのです。
「可能性が0じゃない、って言ってくれたのは先生だけでした。他の大人は無理だって言ったから。だから、合格して絶対先生に報告するんだ!って決めてたんです。」
偏差値37からの大逆転はこうして成功したのです。